2025年10月より、ふるさと納税の寄附で付与されていたポイント制度が全国で廃止される見通しです。これは総務省が「過度なポイント競争」が制度本来の趣旨から逸脱していると判断し、制度ルールの見直しに踏み切ったためです。ポイント廃止によって、寄附者が得られる特典や利便性には大きな変化が生じ、利用者からは戸惑いや不満の声も上がっています。一方で、総務省の方針を支持する自治体や事業者もあり、制度を本来の目的に立ち返らせる転機との見方もあります。この記事では、ポイント制度廃止の背景と経緯、利用者への影響、過去のポイント付与型制度との比較、そして楽天などによる反対運動の状況と今後の制度の方向性、利用者が取り得る対応策について詳しく解説します。
制度変更の背景:総務省の方針と自治体との関係
ふるさと納税は本来、自分の故郷や応援したい自治体への寄附を通じて地域を支援する制度です。しかし近年、ポータルサイト間で寄附者へのポイント還元競争が過熱し、制度の趣旨から逸れる状況が生じていました。例えば、寄附額に応じて楽天ポイントやAmazonギフト券、独自コインなどを高率で付与するキャンペーンが乱立し、中には寄附額の50%相当をポイント還元するような例も見られました。これにより寄附者は実質的に利益を得られる場合もあり、本来の「2000円の自己負担で地域貢献」という枠組みを超えた過度なサービス競争となっていたのです。
こうした状況を問題視した総務省は、2024年6月にふるさと納税制度の指定基準を改正し、「2025年10月1日以降、寄附に伴いポイント等を付与するサイトを通じた寄附募集を禁止する」方針を正式に打ち出しました。この告示改正により、自治体がポイント付与を行うポータルサイト経由で寄附を集めること自体が制度上認められなくなることになります。実際、「楽天ふるさと納税」「ふるなび」「さとふる」などポイント還元をウリにしていたサイトを自治体は利用できなくなり、そうしたポイント○%還元キャンペーンは2025年10月以降一切実施できなくなる見通しです。
総務省がポイント禁止に踏み切った背景には、制度の健全化と自治体負担への配慮があります。同省は「寄附金の流れを見ると、寄附額の一部が仲介サイトに渡り、そこからポイント原資に回っている部分もある」と指摘し、寄附金が地域以外に流出する仕組みを断ち切りたいとの考えを示しました。自治体はポータルサイトに手数料を支払っていますが、その一部がポイント付与の原資となっているため、ポイント廃止によって手数料負担が下がれば自治体に使えるお金が増えるという狙いもあります。総務省は関係事業者と協議の上、システム改修等に時間がかかることを考慮して実施時期を2025年10月と定め、「制度本来の趣旨に沿った適正化への理解を得たい」と説明しています。このように、国と自治体の関係では、総務省が制度の健全化を主導し自治体にルール順守を求める構図となっています。実際、ふるさと納税制度への参加要件である「自治体の指定制度」にこのポイント禁止が組み込まれたため、従わない自治体は制度対象から外されてしまうことになります。制度維持のため自治体側も従わざるを得ず、結果として全国的にポイント制度廃止が進む流れです。
利用者への利便性の変化とその影響
ポイント制度の廃止は、寄附者にとって大きな利便性低下を意味します。これまで多くのポータルサイトでは、寄附するとサイト独自のポイントや提携ポイントが還元され、貯めたポイントを次回の寄附やネットショッピングに利用できる仕組みがありました。例えば楽天ふるさと納税では寄附額に応じて楽天ポイントが付与され、日常の楽天市場での買い物に充当できるなど、寄附者にとって実質的なキャッシュバックのような恩恵がありました。こうしたポイント還元はサイト側の自社負担で提供され、寄附者は負担額2000円以上のリターンを得ることも可能でした。
ポイント廃止後は、これらの特典が一切得られなくなります。寄附者は寄附の際にその場で返礼品を選択し受け取るだけで、追加のポイントや割引はありません。たとえば従来なら「寄附1万円で○○ポイント還元」というキャンペーンで実質的な値引きを享受できていたものが、今後はなくなるため寄附者の実質的なメリットが減少します。特に、高い還元率を狙って複数サイトを使い分けていたようなヘビーユーザーにとって、制度改正の影響は大きいでしょう。
この利便性低下は利用者の寄附行動にも影響を与えると見られます。実際、2025年9月末までに駆け込みで寄附を済ませようとする動きが予想されています。各ポータルサイトも廃止直前まで最後のポイントアップキャンペーンを展開する可能性が高く、「今のうちに高還元の寄附を」と呼びかける状況です。こうした駆け込み需要の後、ポイント目的の利用者が離れれば寄附額が減少する懸念もあります。楽天グループは、現在のままでも寄附者数は今後頭打ちになり5年後をピークに寄附額が減少すると予測しており、ポイント廃止によってふるさと納税の伸びが抑制される可能性を指摘しています。一方で、「ポイント目当ての過剰な寄附」が抑えられることで、本来の趣旨に沿った健全な寄附行動に戻るという見方もあります。利用者にとっては短期的に魅力が減るものの、返礼品の内容や社会貢献の意義そのものに注目が移る契機とも言えるでしょう。
ポイント付与型ふるさと納税(過去の制度)と現在の制度の比較
ポイント制度廃止に伴い、過去の「ポイント付与型」から現在の新しい制度へと大きく様変わりしました。以下に主な相違点を比較します。
- 過去のポイント付与型: 寄附をするとポータルサイト独自のポイントや提携ポイント(楽天ポイント、Amazonギフト券、dポイント等)が一定割合でもらえました。寄附者はそのポイントを使って後日好きな返礼品を選んだり、他の買い物に充当したりでき、寄附のタイミングと返礼品選択を分けることも可能でした。例えば、さとふる等では自治体から発行されるポイントを付与し、寄附者は有効期限内に好きな品と交換する仕組みも存在しました。ポイント還元率の競争も激しく、先述の通りサイトによっては寄附額の数割相当をポイントで還元するキャンペーンもあったのです。
- 現在の制度: ポータルサイト経由であってもポイントや金券的な付与は禁止されました。寄附者は寄附時にその場で返礼品を選択し、後日発送されるのを待つ形になります。サイトをまたいでポイントを貯めるようなことはできず、寄附ごとに完結する形です。なお、クレジットカード決済時に付与されるカード会社のポイントやマイルは規制の対象外であるため引き続き付与されますが、これは各カード会社の通常サービスに過ぎずポータルサイト間の競争には直接影響しません。また、自治体によって用意されている商品券・旅行券などの返礼品(地域内限定で使えるクーポン等)は、適切に地元に関連するものであれば従来通り提供可能です。例えば「ふるなびトラベルポイント」「カタログポイント」といった自治体公認の返礼品としてのポイントは今後も利用できますつまり、純粋なサイト側のサービスとしてのポイント還元が廃止され、制度が本来の「寄附と返礼品」の形に一本化されたと言えます。
この比較から明らかなように、現在の制度では寄附者への経済的インセンティブが抑えられ、寄附の動機付けが返礼品や地域支援の気持ちにより依存する形になりました。一方、複雑だったポイント計算や有効期限管理が不要になるため、シンプルで分かりやすい仕組みになったとも言えます。制度利用者は今後、ポイント以外のメリット—例えば他にはない魅力的な返礼品や自治体のプロジェクト内容—を比較してサイトや自治体を選ぶことになるでしょう。
楽天など事業者・自治体の反対運動の状況
ポイント廃止の方針に対しては、主にポータルサイト事業者から反発の声が上がりました。中でも業界最大手に急成長した楽天グループは真っ向から反対を表明しています。楽天は2024年6月28日付で自社サイト上に「ポイント付与禁止の総務省告示に反対する署名ページ」を開設し、利用者にオンライン署名への協力を呼びかけました。このネット署名は開始からわずか10日ほどで100万件を超え、その後も賛同者を伸ばし続け、2025年3月までに約295万件もの署名が集まりました。楽天の三木谷社長は同年3月18日、集まった署名を当時の石破内閣総理大臣に直接手渡し、総務省告示の撤回を強く求めました。楽天側は「ポイント付与の仕組みは事業効率や寄附者の利便性を高め、ふるさと納税の普及に大きく寄与してきた」と主張し、全面禁止について「民間企業と自治体の協力体制や努力を否定し、ポータル事業者に過剰な規制を課すもの」であり、地方税法の委任範囲を逸脱した総務省の裁量乱用で違法だと批判しています。楽天は「ポイント競争が過熱したというなら上限設定など部分的対応で十分で、全面禁止は不要」とも訴えており、2025年7月にはこの告示の無効確認を求める行政訴訟を東京地裁に提起するに至りました。
しかし、業界全体が楽天と歩調を合わせているわけではありません。他の主要仲介サイトの多くは総務省の方針を容認あるいは支持する姿勢です。例えば、「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク社は親会社を通じ「制度趣旨に合致した運営を従来から行っており、今後も趣旨に沿った方針を強化する」とのコメントを発表し、ポイント禁止を歓迎する立場を明確にしました。また「さとふる」も日本経済新聞の取材に対し賛成の意向を示しています。一方、「ふるなび」を運営するアイモバイル社は公式には反対表明せず、「当社はこれまでも制度趣旨に則りサービス提供しており今後も継続する」とするコメントを出すに留めました。ただしテレビ番組の中では担当執行役員が「ポイント禁止は我々のマーケティングの武器だったのでショック」と本音を語っており、内心では痛手であることが窺えます。
このように、楽天を中心とした反対派と、それ以外の容認派で事業者の対応は分かれています。楽天にとってポイント還元は後発の自社がシェアを伸ばす武器でしたが、老舗のふるさとチョイスなどはポイントに頼らず利用者を集めてきた経緯があり、立場の違いから見解の相違は当然とも言えます。自治体の側から表立った反対表明はほとんどありませんが、ポイント廃止により寄附額減少を懸念する声は一部で聞かれます。また、寄附募集に積極的な自治体ほど楽天などの集客力に期待していただけに、制度変更を残念に思う向きもあるようです。ただ総務省のルールには従わざるを得ず、自治体レベルでは公式には静観する姿勢が大勢です。そのため反対運動はもっぱら楽天など民間事業者と寄附者有志による署名活動という形で展開されている状況です。
今後のふるさと納税制度の方向性と代替手段の可能性
ポイント制度廃止後、ふるさと納税は新たな局面を迎えます。まず考えられるのは、ポータルサイト間の競争軸の変化です。ポイントという分かりやすい差別化要素が消えるため、各社は別の方法で寄附者を引きつける必要があります。具体的には、「○○サイト限定」の返礼品を拡充する動きが一層強まるでしょう。既にふるさとチョイスでは他サイトで扱っていない人気家電(例:バルミューダ製品)を返礼品に揃えるなど独自色を出していますが、今後他のサイトもメーカーや自治体と組んで自社経由でしか寄附できない魅力的な返礼品を用意してくると予想されます。
また、利用者の囲い込み策も多様化しそうです。例えばサイト独自の会員プログラムを強化し、過去の寄附履歴管理やおすすめ情報の提供、UI・サービス向上によって使い勝手の良さをアピールするなど、ポイント以外の部分でリピーターを増やす工夫が進むでしょう。寄附募集の方法自体も、クラウドファンディング型のプロジェクト募集やSDGs寄附など、寄附内容の付加価値で勝負する方向にシフトする可能性があります。
さらに、クレジットカードや決済サービスによるポイント競争の過熱も考えられます。ポータルサイトからの直接還元が禁止されても、カード会社のポイント付与は対象外です。そのため各サイトは特定のクレジットカードとのタイアップキャンペーンなどを展開し、「〇〇カードで支払うと通常よりポイント増量」といった間接的な形で寄附者へのメリットを提供する余地があります。実際、ふるさとチョイスは従前より特定カード利用でのポイントアップ企画を実施してきましたし、今後はPayPayやd払い等の決済プラットフォームとの連携強化も予想されます。制度改正後は、このようにポイント以外の部分で民間の創意工夫が展開されるでしょう。結果としてふるさと納税は、返礼品の魅力と利便性サービスの質で競争する時代に移行すると考えられます。
一方、楽天の法的措置の行方も今後の方向性に影響し得ます。楽天が起こした裁判でポイント禁止の是非が争われ、仮に楽天側が勝訴した場合、総務省に見直しを迫る可能性もゼロではありません。この場合、一定割合までのポイント付与を容認する妥協案などが検討される余地があります。しかし現時点で総務省は方針を堅持しており、2025年10月の全面施行に向け準備を進めています。訴訟の結果が出るまでには時間を要するため、少なくとも施行時点では予定通りポイント廃止が実現すると見られます。制度の長期的な方向性としては、返礼品競争の過熱も含めてより厳格な運用ルールが敷かれ、「寄附による地域貢献」という原点回帰が図られるでしょう。その一環で、2026年10月からは返礼品の地場産品基準がさらに厳格化される予定であり、ポイントのみならず返礼品の内容面でも制度趣旨にそぐわない部分が是正されていく見込みです。
利用者ができる行動:寄附者へのメッセージと対応策
ポイント廃止により制度環境は変化しますが、寄附者として賢く行動することで引き続きふるさと納税を有意義に活用できます。
- 今できること: 廃止前の制度を最大限活用
ポイント還元が受けられるのは2025年9月末までです。もしポイント目当てでの寄附を検討しているなら、この期限までに寄附を済ませることも一案です。各サイトで開催される最後のポイントキャンペーンや、高還元率の特典を見逃さず活用しましょう。ただし駆け込み需要で人気返礼品が品切れになる可能性もあるため、早めの寄附がおすすめです。 - ポイント以外のメリットを重視して寄附先を選ぶ
ポイントがなくなった後は、返礼品そのものの魅力や自治体の取り組み内容を基準に選択してみましょう。各ポータルサイトで返礼品の還元率(寄附額に対する市場価値の割合)やレビュー評価などが公開されていますので参考になります。これまでポイント優先で見過ごしていた自治体にも、質の高い特産品やユニークなプロジェクトがあるかもしれません。ポイントに惑わされない本質的な比較で、自分にとって満足度の高い寄附先を見つけてください。 - 支払い方法を工夫してお得に
クレジットカードや電子マネーで支払えば、カード会社や決済サービスのポイントは今後も受け取れます。例えば還元率の高いクレジットカードで寄附をすれば、間接的に数%分のポイントが手に入ります。ふるさと納税ポータル自体のポイントは無くとも、カード独自のキャンペーンを組み合わせることでお得に寄附することは可能です。複数のカードや決済手段を比較し、最もポイントが貯まる方法で寄附するのも一つの戦略です。 - 直接寄附や自治体独自受付の活用
多くの方はポータルサイト経由で寄附していますが、一部自治体では自社サイトや窓口で直接寄附の受付も行っています。直接寄附すれば仲介手数料がかからず、寄附金の全額が自治体に届くメリットがあります(ワンストップ特例の申請方法など手間は増えますが)。ポイントは付きませんが、自治体への応援の気持ちをダイレクトに届けたい場合や、ポータルに無い返礼品を扱っている場合には検討してみてもよいでしょう。 - 声を上げる・情報発信に参加する
ポイント制度の存続を望む場合、利用者として意思表示をすることも大切です。楽天が実施したネット署名のように、賛同できる署名活動があれば参加して意見を届けましょう。署名は既に一度提出されていますが、楽天グループは引き続き撤回を求め活動を続けると表明しています。またSNS等で自身の考えや体験を発信し、建設的な議論を喚起することも一助になります。制度は利用者の声によって見直される可能性もあります。もちろん、一利用者としてルールを遵守しつつ、より良い制度運営のための提言やフィードバックを自治体や総務省に送ることも有意義でしょう。
ふるさと納税は、この先ポイントという「オトク感」が薄れるかもしれません。しかし、制度の根幹である「寄附を通じた地域応援」という価値は不変です。ポイント競争に振り回されず、本当に応援したい地域や魅力ある返礼品との出会いに目を向ければ、ふるさと納税は今後もあなたにとって有意義なものとなるでしょう。制度がより健全になることで、寄附金が確実に地元のために活用される環境が整うとも言えます。ぜひ今後も賢く制度を利用し、あなたの大切なお金を日本各地の未来につなげてください。私は鳥取に移住し鳥取の返礼品を頼むことはできませんが、将来の故郷にふるさと納税したいです。
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