精神科病棟で鑑定入院を引き受けた話

病院勤務

こんにちは。今回は少し重いテーマではありますが、「精神科病棟での鑑定入院」について、医療者目線で書いてみたいと思います。以前精神科病棟で働いていたときに経験したことを含めて、まとめてみました。
鑑定入院とは何か、どのような人が対象になるのか、有名な事件での事例、実際の病棟での生活や看護についてなど、知っておいて損はない内容です。

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鑑定入院(鑑定留置)とは?精神鑑定の目的

「鑑定入院(鑑定留置)」とは、刑事事件の被疑者や被告人が精神的に刑事責任を問える状態かどうかを調べるために行う入院です。精神鑑定の一環として行われるこの入院では、精神科医や専門の医療スタッフが一定期間観察し、診断や報告を行います。

この間、本人の意思では退院できず、生活や行動は厳格に管理されます。観察期間は平均1〜2か月ですが、状況に応じて延長される場合もあります。

入院中には以下のようなことが行われます:

  • 医師による定期的な問診・面接
  • 日常生活での言動の観察
  • 心理検査(WAIS、ロールシャッハなど)
  • 必要に応じて投薬治療

補足:鑑定入院(鑑定留置)の結果はどう使われるのか?

鑑定入院(鑑定留置)の結果により、

  • 責任能力あり → 通常の刑事手続きへ
  • 責任能力なし(心神喪失等) → 医療観察法による入院や通院など
  • 責任能力が限定的(心神耗弱など) → 量刑の軽減

などが決まります。

精神鑑定が必要とされた有名事件

近年、ニュースで取り上げられる凶悪事件の中には、「精神鑑定」の実施が注目されるケースがあります。

安倍晋三元首相の銃撃事件(2022年)

安倍晋三元首相が参議院選挙の応援演説中、背後から手製銃で2発撃たれ死亡した事件。
山上徹也被告は宗教団体(旧統一教会)への恨みが背景にあり、安倍氏がその団体と関係があると信じたためとされています。約半年におよぶ長期の精神鑑定の結果、「責任能力あり」と判断されました。そのため、通常どおり刑事責任を問う裁判手続きが進行しています。

京都アニメーション放火事件(2019年)

36人の命が奪われたこの事件では、犯人である青葉真司被告に対して鑑定留置(=鑑定入院)が行われました。争点となったのは、事件当時に責任能力があったかどうかです。

最終的に「完全責任能力あり」とされ、2024年に死刑判決が下されました。

その他の例

  • 秋葉原無差別殺傷事件(2008年)
  • 相模原障害者施設殺傷事件(2016年)

いずれも被告人の精神状態が裁判の鍵となり、鑑定入院を経て審理が進められています。

鑑定入院(鑑定留置)中の病棟生活と看護

精神科病棟での鑑定入院は、一般的な入院生活とは大きく異なる側面があります。まず、外部との連絡は制限され、携帯電話やインターネットの使用は禁止。手紙や面会も許可制です。

また、病棟では患者同士の接触も制限され、監視カメラ付きの部屋や個室で過ごすこともあります。

病院では患者(医療保護対象者)ですが、刑事手続き上は被疑者または被告人という二重の立場になります。

看護師の役割

鑑定入院の看護師は、以下のような重要な役割を担います:

  • 日常行動の観察と記録
  • 服薬管理と健康チェック
  • 心理的サポートと安全確保

特に鑑定対象者の精神状態に急変が見られる場合、即時対応が求められるため、高度な専門知識と冷静な判断力が必要です。

医療者としての経験

私が関わったケースでは、傷害事件を起こした中国籍の女性が精神科病棟へ鑑定入院となりました。入院にあたり、病院側には裁判所から事件概要書や関係資料が提供され、事件当時の状況や背景を把握した上で、鑑定が始まります。

医療者の立場では、主に事件当時の精神状態と、入院中の日常生活における精神状態との関連性に注目し、日々観察を行います。このため、他患者との関わりはほとんどなく、積極的な精神科的治療(カウンセリングや集団療法など)は行われません。

訪室時には職員2名以上で対応し、診察や食事・排泄・内服・環境整備といった日常生活上の看護を行いました。観察においては、患者の表情、言動、行動パターンの変化などを細かく記録することが求められます。

このケースでは、入院中に裁判所への出廷があり、病棟外での移送や警備も含めた対応が必要となりました。鑑定入院は「医療」と「司法」の中間領域にある特別な対応が求められる経験であり、医療者側にも高い慎重さと倫理的配慮が問われます。

追記:精神疾患患者に対する偏見

前述した、「凶悪事件に対して、精神鑑定により責任能力の有無が問われる」などとニュースで耳にすることがあります。それに対して、「精神疾患患者であれば、人を殺しても減刑されることはおかしい」という意見や、極端な例だと「危険な精神疾患患者を、閉じ込めればいいのではないか」などという意見もニュース記事に対するコメントでみたことがあります。
統合失調症や躁うつ病などの精神疾患では、症状による病的世界観と現実世界が混在してしまい、混乱を来すことがあります。症状悪化した際は特に、現実世界で正しい判断ができずに問題を起こしたり、事件に発展することも。
個人的な意見としては、精神疾患患者が悪いのではなく、地域の人々(行政も含む)が勇気を出して手を差し伸べることができればよかったのではないかと感じます。そうすれば、問題行動を起こす前に治療や支援につながり被害者を守れたのかもしれないと思っています。

まとめ:鑑定入院は「観察」が重要

鑑定入院は刑事事件に関わる特殊な制度ですが、精神医療と司法の交差点とも言える重要な位置づけです。

当事者にとっては入院の必要性を感じられないかもしれませんが、「責任能力の有無」が人生を左右する局面であり、同時に「精神医療の支援を受ける第一歩」となることもあります。

社会全体がこうした制度を理解し、当事者の声にも耳を傾けることが、よりよい精神医療・司法制度につながっていくと感じています。

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